後ろから車間を詰められた。
無理な追い越しをされた。
幅寄せされた。
クラクションを鳴らされた。
フードデリバリーで毎日のように道路を走っていれば、いつ交通トラブルに巻き込まれても不思議ではありません。
そして2026年8月、道路上のちょっとした怒りでは済まない、強烈な事件が相次いで報じられました。
埼玉では、車間距離を巡るトラブルから、後続車が踏切内に残され列車と衝突。
京都では、前を走るバイクに約2km以上にわたって幅寄せなどを繰り返したうえ衝突させ、男女2人を負傷させたとして男が殺人未遂容疑で逮捕されました。さらに、その後の恐喝事件についてもすでに逮捕・起訴されていたと報じられています。
もちろん、いずれも捜査段階を含む事件です。殺人未遂などについて有罪が確定したという話ではありません。
ただ、配達員の危機管理として見るなら、非常に重要なことを教えてくれます。
「煽られたらやり返すな」だけでは足りません。
相手によっては、譲って終わるとも限らない。
逃げても追ってくる。止まれば近づいてくる。最悪の場合、車そのものを使ってバイクへ危害を加えられる可能性まで考えなければならない。
フードデリバリー配達員にとって道路上の勝ち負けなど、どうでもいい話です。
身体を壊さない。車両を壊さない。警察沙汰の加害者側にもならない。そして無事に家へ帰る。
これが唯一の勝ちです。
- 京都・約2kmにわたる幅寄せの末、バイクに衝突した疑い
- 埼玉では「車間距離が近い」という怒りから踏切で列車衝突
- 京都と埼玉、方向は逆でも原因は同じだ
- フードデリバリー配達員には特に現実的な問題
- 50cc原付は「後ろが怒っているから速度を出す」ができない
- 自転車配達員も注意 2026年4月から側方通過ルールが変わった
- ただし「車間を詰めた=即、妨害運転罪」ではない
- では配達中に後ろから煽られたら、どうする?
- 110番と#9110、配達員ならこう考える
- ドラレコは「晒すため」ではなく、自分の立場を守るため
- 証拠を残すことと、Xへ晒すことは別
- 配達中なら料理はどうする? 答えは簡単だ
- あおられても急ブレーキで仕返しするな
- 「逃げる→記録する→110番」が配達員の基本
- 数百円の注文で人生まで赤字にするな
- 参考資料
京都・約2kmにわたる幅寄せの末、バイクに衝突した疑い
まず京都の事件です。
事件が起きたのは2026年6月12日未明、京都市伏見区。
警察発表を基にした報道によると、24歳の男が軽乗用車を運転し、前を走っていたバイクに対して約2km以上にわたり執拗な幅寄せなどを行ったうえ衝突し、乗っていた男女2人を転倒させて殺害しようとした疑いが持たれています。
男は8月19日、殺人未遂容疑で逮捕されました。
バイクを運転していた男性は軽傷、同乗していた女性は骨折を伴う重傷を負ったと報じられています。
男は殺人未遂容疑について否認しています。
ここまででも相当な事件ですが、さらに続きがあります。
報道によると、衝突後、男は男女2人に因縁をつけて自分の車に乗せ、京都市南区方面まで移動。男性からクレジットカードを脅し取ったとして、恐喝事件についてすでに逮捕され、その後起訴されていたとされています。
つまり、今回の殺人未遂容疑での逮捕以前に、事故後の行為について別の刑事手続きが進んでいたわけです。
「危険運転が終わればトラブルも終わる」とは限らない。
この事件が配達員に突きつけるのは、そこです。
埼玉では「車間距離が近い」という怒りから踏切で列車衝突
もう一つが、2026年8月18日にさいたま市岩槻区で起きた事件です。
52歳の男が車を運転中、後続車との車間距離を巡ってトラブルになったとされています。
警察によると、男は踏切を渡ったところで停車し、後続車が踏切内から出られない状態にしたうえ、車を降りて後続車の運転手に「車間距離が近い」と文句を言ったとされています。
その後、警報機が鳴り遮断機が下りました。
後続車を運転していた男性は車外へ避難し無事でしたが、車は列車と衝突しました。
男は殺人未遂容疑で逮捕・送検されていますが、「殺そうとは思っていません」などと殺意を否認しています。
さらに、その後の報道で男がJAFの職員だったことも明らかになりました。
こちらの事件で考えたいのは、
「車間距離が近い」という道路上では珍しくない不満が、取り返しのつかないレベルまで膨らむ可能性がある
ということです。
京都と埼玉、方向は逆でも原因は同じだ
この2件は構造が違います。
埼玉では、報道によれば前を走っていた側が「後続車の車間距離が近い」と腹を立てました。
京都では、四輪車側が前を走るバイクに対し、約2km以上にわたる幅寄せなどをした疑いが持たれています。
しかし配達員側から見れば、教訓は同じです。
道路上で見知らぬ相手の感情を制御することはできません。
普通ならそこで終わる話でも、相手が普通に終わらせてくれる保証はありません。
だから、こちらが取るべき戦略は「相手を教育する」ではない。
接触時間を最短にする。
それだけです。
フードデリバリー配達員には特に現実的な問題
Uber Eatsや出前館などで稼働する配達員は、一般の人より何倍煽られやすい――。
そう断定できる統計はありません。
しかし、原付、原付二種、自転車、軽貨物などで長時間公道を走る仕事であることは事実です。
しかも通常の移動とは少し違います。
店舗入口を探す。
目的地を確認する。
住宅街へ入る。
番地を確認するため減速する。
右左折する。
安全な停車場所を探す。
こうした速度変化や進路変更が1日に何度も発生します。
配達員にとって交通トラブルは、仕事と無関係な話ではありません。
50cc原付は「後ろが怒っているから速度を出す」ができない
特に50ccクラスの一般原付は、四輪との速度差が生まれやすい乗り物です。
一般原付の最高速度は30km/h。
一定の交差点では二段階右折も必要です。
後ろから四輪車が迫ってきた。
だから40km/h、50km/hまで出して車の流れに合わせる。
これは対策ではありません。
後ろの車の機嫌を取るために自分が違反する必要はありません。
安全に譲れる場所があるなら先へ行かせる。
なければ、安全に走れる場所まで通常どおり走る。
焦って路肩へ突っ込んだり、急加速したりする方が事故につながります。
自転車配達員も注意 2026年4月から側方通過ルールが変わった
2026年4月1日から、自動車などが自転車等の右側を通過する際のルールも変わっています。
十分な間隔を確保できない場合、自動車側には、その間隔に応じた安全な速度で進行することが求められます。
警察庁は安全の目安として、可能な限り間隔を空け、少なくとも1m程度を確保すること、1m程度を確保できない場合には時速20~30km程度まで減速する考え方を示しています。
さらに2026年4月から、この側方通過に関する違反も、条件を満たした場合に妨害運転の対象となる違反類型へ追加されています。
「自転車ならギリギリを抜いていい」というルールではありません。
ただし「車間を詰めた=即、妨害運転罪」ではない
ここも重要です。
いわゆる「あおり運転」と、道路交通法上の妨害運転罪は完全な同義ではありません。
警察庁によると、他の車両等の通行を妨害する目的で、車間距離不保持、不必要な急ブレーキ、急な進路変更、危険な追越し、警音器の不適切な使用など一定の違反を、交通の危険を生じさせるおそれのある方法で行った場合などに妨害運転として処罰の対象となります。
妨害運転は最大3年の拘禁刑。
さらに著しい交通の危険を生じさせた場合には最大5年の拘禁刑となり、運転免許取消しの対象にもなります。
逆に言えば、単に「後ろの車が近く感じた」というだけで、自動的に妨害運転罪が成立するわけではありません。
目的や具体的な運転行為などを含めて判断されます。
では配達中に後ろから煽られたら、どうする?
1.絶対に教育しようとしない
まずこれです。
「危ないだろ」
「車間取れよ」
「ドラレコ撮ってるぞ」
言いたくなるでしょう。
しかし、必要ありません。
正常な相手なら、そもそも執拗なあおり運転をしてこないでしょう。
異常な相手に正論を説明して、何の利益があるのか。
ゼロです。
2.安全に先へ行かせられるなら行かせる
駐車場や広い路肩など、安全に進路を外せる場所がある。
そこで相手を先へ行かせられるなら、それでいい。
「俺は悪くないのに何で譲るんだ」と考える必要はありません。
危険車両を自分から遠ざけられるなら、それだけで得です。
道路上のプライドには1円の価値もありません。
3.しかし、京都事件を見れば「譲れば必ず終わる」とも言えない
問題はここです。
先に行かせようとしても付いてくる。
曲がっても付いてくる。
幅寄せしてくる。
一度離れようとしても追跡してくる。
そうなれば段階を上げる必要があります。
単なる「ちょっと気の荒い車」ではなく、自分に対する継続的な危険行為として考える。
京都事件のように、危険運転が長距離にわたるケースも現実に報じられているからです。
4.追跡が続くなら自宅へ向かわない
これは配達員には特に重要です。
普段バイクを置いている場所。
自宅。
家族がいる場所。
そこへ相手を案内する理由はありません。
追跡が続いているなら、人目のある場所、警察署や交番など、安全確保につながる場所を考えます。
危険が現在進行中なら110番です。
5.「とりあえず路肩に止まる」も相手次第では危ない
警察庁は、あおり運転を受けた場合には安全な場所へ避難し、車の場合には車外へ出ず110番することなどを案内しています。
ところが原付や自転車にはドアも鍵もありません。
相手が明らかに自分を追跡している状況で、人のいない暗い路肩へ止まれば、むしろ相手と直接対面することになります。
だからバイク配達では、
「停止すること」ではなく「安全な場所へ避難すること」
を目的に考えた方がいいでしょう。
110番と#9110、配達員ならこう考える
今まさに追いかけられている。
幅寄せされている。
進路を塞がれた。
相手が降りてこちらへ向かってきた。
危害を加えられる危険がある。
この状況なら110番です。
警察庁も、事件・事故など緊急の通報は110番としています。
一方で、その場の危険は終わっている。
昨日あおられた。
ドラレコに映像が残っている。
被害届や相談について聞きたい。
こうした緊急性のない警察相談には、警察相談専用電話#9110があります。
もちろん、走行しながらスマートフォンを操作するという意味ではありません。
安全確保が最優先です。
ドラレコは「晒すため」ではなく、自分の立場を守るため
フードデリバリーの原付やバイクにも、ドラレコを付ける意味はあります。
警察庁も、あおり運転対策としてドライブレコーダーの活用を案内しています。
重要なのは、相手とその行為を客観的に残せる可能性があることです。
- ナンバープレート
- 車種や色
- 日時
- 場所
- 幅寄せや接近などの具体的行為
- どの程度の時間・距離続いたか
自分の記憶だけなら、後から「何メートルくらいだったか」「どこから始まったか」が曖昧になります。
映像なら、事故や運転行為を客観的に確認する材料になり得ます。
トラブル後は必要な映像が上書きされないよう保存しておくことも重要です。
証拠を残すことと、Xへ晒すことは別
ナンバーが撮れた。
顔も映った。
だからXへ投稿する。
ここは分けて考える必要があります。
警察や保険会社へ証拠として提出することと、不特定多数へネット公開することは全く別です。
証拠はまず保存。
SNS公開については別の法的リスクを考える。
腹が立った直後にネット上でも報復戦を始めれば、道路上のトラブルを自分から長期戦に変えることになります。
配達中なら料理はどうする? 答えは簡単だ
商品を持っている。
届け先まであと3分。
配達時間も気になる。
キャンセルになったら困る。
しかし、異常な車に追いかけられている状況なら、そんなものの優先順位は一気に下がります。
考えてみれば当たり前です。
1件数百円から千円前後の配達。
一方、事故になれば車両修理。
ケガをすれば治療。
仕事を休めば休業損失。
さらに相手へ反撃して自分まで事件を起こせば、警察対応まで付いてきます。
採算が合うわけがありません。
危険があるならまず安全確保。
緊急なら110番。
その後で配達プラットフォームのサポートへ連絡し、注文の処理を相談すればいい。
料理を守るために身体を賭ける仕事ではありません。
あおられても急ブレーキで仕返しするな
ここで埼玉事件側の教訓へ戻ります。
こちらが被害を受けたと思っていても、やり返していい理由にはなりません。
わざと急ブレーキ。
相手の進路を塞ぐ。
追いかける。
幅寄せする。
車体を叩く。
信号待ちで降りて怒鳴り込む。
こうした行動を取れば、自分自身の行為が別に問われる可能性があります。
特に不必要な急ブレーキや進路変更、車間距離不保持などは、妨害運転の対象となる違反類型にも含まれています。
せっかく被害者だったのに、自分から加害者側の材料を作る必要はありません。
「逃げる→記録する→110番」が配達員の基本
道路上で異常な車に遭遇したら、難しい判断を何十個もする必要はありません。
まず離れる。
可能なら証拠を残す。
危険が続けば110番。
そして配達は後です。
相手を説得しない。
説教しない。
追いかけない。
ネットでも報復しない。
道路上で「俺の方が正しい」と証明する必要などありません。
数百円の注文で人生まで赤字にするな
京都では、バイクへの約2km以上にわたる幅寄せなどの末に衝突し、男女を負傷させたとして殺人未遂容疑で男が逮捕されました。
埼玉では、「車間距離が近い」という交通トラブルから、後続車が踏切内に残され、列車と衝突する事態になりました。
方向は違います。
しかし、配達員として覚えておくべきことは同じです。
世の中には、道路上の些細な出来事を些細なまま終わらせない人間もいる。
だからこちらは、感情ではなく損得で動く。
相手が先へ行けば、それでいい。
追ってくるなら逃げる。
危険なら110番。
料理は後回し。
車両と身体を守る。
そして絶対にやり返さない。
フードデリバリー配達員にとって道路上の「勝ち」とは、相手を言い負かすことでも、追い抜き返すことでもありません。
事故にも事件にもならず、その日の稼働を終えて、自分の車両で無事に家へ帰ることです。
1件数百円の仕事で、事故、修理、治療、休業、刑事事件まで背負えば完全な赤字。
道路上ではプライドより現金。
そして現金より、まず身体です。
参考資料
・警察庁「危険!『あおり運転』はやめましょう」
・警察庁「道路交通法等の改正」
・警察庁 自転車ポータルサイト
・警察庁「警察相談専用電話 #9110」関連資料
・警察庁「ドライブレコーダーの装着効果について」
・MBSニュース 2026年8月19日報道
・テレビ朝日 2026年8月19日~21日報道
・FNNプライムオンライン 2026年8月19日~21日報道
※本記事は2026年8月22日時点で確認できる警察発表を基にした報道・公的資料をもとに構成しています。捜査中の事件について、逮捕・送検された人物の有罪や殺意の存在を断定するものではありません。



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