フードデリバリー市場が縮小しているから、事業者が撤退している――。
もしそうなら話は簡単です。
ところが、現在の国内フードデリバリー市場で起きていることは、そんな単純な話ではありません。
市場そのものは約8240億円規模まで拡大するとみられています。
それなのに、事業者を見ると驚くほど明暗が分かれています。
- 市場全体:2025年は約8240億円規模、前年比2%増の見込み
- Uber Eats:日本事業で2023年~2025年の3年連続黒字
- 出前館:2026年8月期の営業損益予想は79億円の赤字
- menu:大規模なエリア拡大を進めた後、日本のフードデリバリー事業終了を発表
- Wolt:日本市場から撤退
- Rocket Now:送料無料・サービス料無料・店頭価格を武器に急速に攻勢
同じフードデリバリー市場で、なぜここまで違うのでしょうか。
今回考えたいのは、「フードデリバリーはもう終わりなのか?」という話ではありません。
むしろ逆です。
市場が拡大しているのに、なぜフードデリバリー事業者は撤退していくのか。
市場は約8240億円、フードデリバリーそのものが消えたわけではない
フードデリバリーをめぐっては、コロナ禍が終われば市場そのものが急速に縮小するという見方もありました。
しかし、報道で紹介されている調査では、2025年の国内フードデリバリー市場規模は8240億円、前年比2%増が見込まれています。
2019年と比較すれば、ほぼ倍の規模です。
つまり、menuやWoltが撤退した理由を単純に「もうデリバリーを使う人がいないから」と説明することはできません。
客はいる。
注文もある。
そして市場も巨大です。
問題は、その注文を取って利益を残せるかどうかです。
Uber Eatsは3年連続黒字、しかも過去最高売上
その違いを象徴しているのがUber Eatsです。
Uber Eatsの日本事業は、2023年、2024年、2025年と3年連続で黒字を達成したとしています。
さらに2026年1月には、日本事業で過去最高売上を記録。
加盟店は約12万店、配達パートナーは約10万人規模とされています。
ここで重要なのは、Uber Eatsも地方を含めてサービスを大きく拡大してきたことです。
「全国へ拡大すると必ず赤字になる」という話でもありません。
拡大しながら黒字化できた事業者と、拡大しても採算を合わせられなかった事業者が存在します。
同じ市場で、この差は非常に大きいと言えます。
出前館は63億円超の営業赤字、通期予想は79億円
対照的なのが出前館です。
2025年9月~2026年5月期は、売上高282億9000万円に対して営業損失63億7000万円。
前年同期の営業赤字30億7500万円から、赤字幅は倍以上に拡大しました。
さらに2026年8月期の営業損益予想も79億円の赤字へ下方修正されています。
普通に数字だけを見れば、「それならコストを削って利益改善を急ぐのではないか」と考えたくなります。
ところが、現在の出前館は逆方向にも動いています。
「お店価格で出前館」の対象店舗は、2026年4月1日時点の約1万5000店舗から、6月には約2万1000店舗、8月には約2万5000店舗まで拡大しました。
さらに対象となる出前館配送店舗では、送料無料施策も続けています。
赤字なのに、価格競争から降りていない。
ここに現在のフードデリバリー市場の厳しさがあります。
Rocket Now参入で「誰がコストを負担するのか」という戦争へ
価格競争をさらに激しくしている存在がRocket Nowです。
Rocket Nowは、送料無料、サービス料無料、さらに店頭価格を前面に出して利用者を獲得しています。
利用者からすれば非常に分かりやすいサービスです。
しかし事業者側から見れば、話は全く違います。
配達には当然コストがかかります。
配達員への報酬、加盟店対応、システム運営、決済、カスタマーサポート、広告、クーポンなど、1件の注文を成立させるだけでも多くの費用が発生します。
それにもかかわらず、利用者から送料やサービス料を取らないのであれば、そのコストをどこかが負担しなければなりません。
Rocket Nowが低価格施策で顧客を取りに来れば、Uber Eatsや出前館も何もしないわけにはいきません。
結果として現在の競争は、単純な加盟店舗数競争ではなく、
「誰が利用者獲得のためのコストを長く負担できるのか」
という資本力と収益構造の勝負になっています。
menuは撤退直前まで拡大していた
そして、この業界を見るうえで忘れてはいけないのがmenuです。
menuは2026年1月に関東・関西で多数の新エリアを公開し、その後もサービスエリアを拡大していました。
外から見れば、「これからさらに成長していくサービス」に見えても不思議ではありません。
ところが、その数カ月後にフードデリバリー事業終了が発表されました。
ここから分かることはかなり重要です。
加盟店が増えている。
配達エリアが増えている。
キャンペーンが増えている。
これらはサービスが活発に見える材料にはなります。
しかし、その会社の事業が安全だという証明にはなりません。
最終的に重要なのは、注文数そのものではなく、その注文から利益を残せる構造になっているかどうかです。
市場が大きいことと、儲かることは全く別
これはフードデリバリーだけの話ではありません。
市場規模が大きいことと、その市場へ参入した会社が儲かることは別問題です。
仮に利用者が増えて注文数が増えても、1件注文を獲得するためにそれ以上の金を使っていれば、売上が増えるほど赤字が膨らむこともあります。
だから見るべきなのは、単純な「注文数」「加盟店数」「エリア数」ではありません。
1件の注文を取って、最終的にいくら利益が残るのか。
ここです。
市場拡大の裏側で、淘汰が始まっている可能性
現在の状況を並べると、非常に興味深い構図が見えてきます。
市場は8240億円規模へ拡大。
Uber Eatsは黒字化。
Rocket Nowは積極投資で攻勢。
一方でmenuとWoltは撤退し、出前館は巨額赤字を抱えています。
つまり、フードデリバリー市場そのものが消えているのではありません。
巨大市場の中で、事業者の淘汰が進んでいる可能性があります。
市場が大きいからこそ、企業はそこを取りに行きます。
その結果、値引き、送料無料、クーポン、店頭価格などによる競争が激しくなる。
そして、その競争に耐えられなくなった事業者から撤退していく。
そう考えれば、市場拡大と事業者撤退は矛盾しているようで、実は同時に起こり得ます。
配達員にとって「出前館が弱る」は他人事ではない
そして、この競争は利用者や企業だけの話ではありません。
配達員にも直接影響します。
menuが終了すれば、その配達員の一部はUber Eats、出前館、Rocket Nowなどへ流れるでしょう。
もし今後、出前館まで大幅縮小あるいは撤退ということになれば、国内の配達員はさらにUber Eatsへ集中する可能性があります。
配達員からすれば、プラットフォーム同士が競争している状態の方が選択肢があります。
一社への依存が強くなれば、報酬、配車、キャンペーン、評価制度などが変更された場合に逃げ道が少なくなります。
だから「出前館が赤字で大変そうだ」というだけの話ではありません。
出前館が今後どう立て直すのかは、日本で配達を続ける人間にとっても無関係ではないのです。
次に見るべきは「店舗数」ではなく採算
今後フードデリバリー各社を見るとき、加盟店舗数やサービスエリアだけを追うのでは足りません。
menuが撤退直前まで拡大していたことを考えれば、それはなおさらです。
見るべきなのは、
- 注文数が増えているのか
- 売上が増えているのか
- 販促費はいくらかかっているのか
- 配達コストを誰が負担しているのか
- そして最終的に利益が残っているのか
です。
市場8240億円。
それでも事業者は消えていく。
現在のフードデリバリー業界で起きているのは、市場の終焉ではなく、巨大市場をめぐる生存競争なのかもしれません。



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