2026年7月5日、東京都世田谷区で、フードデリバリーサービス「ロケットナウ」の配達員として訪れた男が、留守番中の小学生女児に抱きつき、顔にキスをするなどしたとされる事件が起きた。
警視庁北沢署は9月25日までに、ウズベキスタン国籍のムーミノフ・ディルショッド・コミルジョノビッチ容疑者(45)を不同意わいせつの疑いで逮捕した。
この事件で問われるべきなのは、容疑者本人の刑事責任だけではない。
なぜ、偽造された運転免許証で登録されたとみられる配達員アカウントが売買され、登録者とは違う人物が利用者の玄関先まで行けたのか。
さらに、被害女児の母親が事件直後にロケットナウへ連絡した際、有人オペレーターの受付時間が終了しており、AIチャットによる対応しか受けられなかったという。
フードデリバリーを日常的に利用する家庭にとって、決して他人事ではない問題だ。
事件の概要――留守番中の女児が被害に
事件が発生したのは2026年7月5日。母親が買い物に出ていた間、自宅で留守番をしていた小学生の女児が、配達に訪れた男からわいせつ行為を受けた疑いがある。
集英社オンラインの取材によると、母親は事件後も娘への影響を心配し、二度と同じような被害が起きないよう運営会社に真剣な対応を求めている。
フードデリバリーは、配達員が注文者の自宅住所を把握し、玄関先まで訪れるサービスだ。
だからこそ、運営会社には、誰が配達しているのかを確認し、利用者が安心して注文できる仕組みを維持する責任がある。
偽造免許証で登録されたアカウントが転売されていた
今回の事件で特に衝撃的なのが、容疑者が利用していた配達員アカウントの入手経路だ。
2026年10月15日の集英社オンラインの報道によると、捜査関係者は、何者かが偽造された日本人名義の運転免許証を使ってロケットナウに登録したと説明している。
その後、アカウントはLINEグループを通じて売買され、26歳のウズベキスタン人男性の手に渡った。さらに2026年2月ごろ、今回逮捕された45歳の容疑者へ転売されたという。
つまり、登録上の人物と、実際に配達していた人物が一致していなかったとされる。
ここで問題なのは、単に身分証明書の真偽を確認することだけではない。
登録時の本人確認を通過しても、その後アカウントが第三者に渡れば、最初の審査だけでは不正利用を防げない。
配達開始時や稼働中にも、登録者本人が配達していることを継続的に確認する必要がある。
犯罪被害の緊急連絡にAIチャット――これで十分なのか
もう一つ、重大な問題がある。
集英社オンラインの取材で、母親は事件当日、警察から配達員の名前や身元を確認するよう求められたと証言している。
ところが、ロケットナウの有人オペレーターの受付時間は終了しており、AIチャットによる自動応答しか利用できなかったという。
母親は緊急性を伝え、配達員の名前を確認しようとしたものの、個人情報保護を理由に回答を得られなかったと話している。
もちろん、企業が利用者からの問い合わせだけで、配達員の個人情報を無条件に開示することは適切ではない。
しかし、今回のように警察が関与する重大事件であれば、緊急担当者につなぎ、警察からの正式な照会に迅速に対応できる仕組みが必要ではないだろうか。
AIチャット自体が悪いわけではない
注文の確認、クーポンの利用方法、返金状況、配達時間の問い合わせ。こうした日常的な質問にAIチャットを活用することには合理性がある。
しかし、暴行、わいせつ被害、脅迫、重大事故といった緊急事態は別だ。
通常の問い合わせ窓口と、犯罪・事故の緊急窓口は明確に分離すべきである。
24時間365日、緊急事案を受け付ける有人窓口を設け、アカウントの一時停止、証拠保全、警察への対応を速やかに行える体制が求められる。
緊急時の第一連絡先は110番や119番だが、警察や救急への通報とは別に、サービス運営会社が対応すべき業務も存在する。
事件発生からアカウント停止まで9日間
母親が確認したところ、事件に使われたアカウントが停止されたのは7月14日。事件発生から9日後だったという。
ここで明らかにすべきなのは、なぜ9日間を要したのかという点だ。
事件当日の申告は、どの部署に伝えられたのか。重大な犯罪被害として扱われたのか。アカウントの一時停止を検討したのか。
また、事件翌日には通常の利用体験を尋ねる自動アンケートメールが届いたと母親は証言している。
自動送信自体は一般的な仕組みだが、重大な被害申告を受けた注文について、通常のアンケート配信を停止する仕組みも検討すべきだろう。
ロケットナウは謝罪し、本人確認の強化を説明
集英社オンラインは運営会社に質問状を送り、2026年10月15日、記事公開後に届いた回答を追記した。
ロケットナウ側は被害者と家族への謝罪を表明し、家族への連絡が遅れたことについても謝罪した。
また、家族と直接面会し、懸念や要望を聞いて支援を行っていると説明している。
本人確認については、公的身分証明書、顔写真、銀行口座、必要に応じた在留資格や就労資格の確認を実施しているとした。
さらに、ランダムまたはリスク検知時の自撮り写真による本人確認システムの導入、既存配達員の再確認などを進めると説明している。
不正利用に関係するアカウントについても、永久的な利用禁止措置を講じたとしている。
こうした改善策は必要だ。しかし、それだけで問題が解決したと判断することはできない。
今回のアカウントがなぜ本人確認を通過し、別人による利用が続いたのか。事件後の停止判断になぜ時間を要したのか。緊急時の有人対応をどう改善するのか。
具体的な検証結果と運用改善の説明が求められる。
Uber Eats・出前館も他人事ではない
この問題はロケットナウだけに限った話ではない。
Uber Eatsや出前館など、フードデリバリー事業者は共通して、登録した配達員が注文者の自宅まで商品を届ける仕組みを採用している。
各社の本人確認方法や緊急サポート体制には違いがあるため、すべての会社が今回と同じ問題を抱えていると断定することはできない。
それでも、配達員アカウントの貸与・売買を防ぐこと、犯罪被害の通報に迅速に対応することは、業界全体の課題だ。
現役配達員の立場から見ても、正規の登録手続きを守って働く人たちと、他人名義のアカウントを利用する人たちが同じ仕組みで稼働できてしまう状態は放置できない。
不正利用が横行すれば、利用者の安全だけでなく、真面目に働く配達員全体への信用にも影響する。
ロケットナウに求めたい5つの改善策
- 24時間対応の有人緊急窓口:犯罪被害や重大事故について、通常のAIチャットとは別の受付経路を用意する。
- 配達員本人の継続的な確認:登録時だけでなく、稼働中も顔認証などを活用して不正利用を防止する。
- アカウント売買・貸与の検知:不審な利用状況を調査し、必要に応じて稼働を制限する。
- 重大被害申告時の迅速な対応:アカウントの一時停止、注文記録や関連データの保全、警察との連携を行う。
- 再発防止策の検証と公表:今回の事件で何が機能せず、どの仕組みを改善したのか説明する。
まとめ――料理を届ける前に、利用者の安全を守れる仕組みを
今回の事件の刑事責任は、まず容疑者本人について捜査・司法手続きの中で判断されるべきものだ。
一方、フードデリバリーを運営する企業には、登録者と実際の配達員が一致しているかを確認し、緊急時に適切な対応を取れる仕組みが求められる。
AIによる問い合わせ対応は、利便性や業務効率を高める手段として活用すればよい。
しかし、犯罪被害を訴える利用者が人間の担当者につながれない状況は改善する必要がある。
料理の配達は効率化できても、利用者の安全と緊急対応まで効率だけで判断してはいけない。
ロケットナウには、今回の事件で明らかになった問題を検証し、具体的な再発防止策と緊急対応体制を示してもらいたい。
そしてUber Eats、出前館を含む業界全体にも、同じような被害を防ぐための取り組みを求めたい。
参考資料・出典
※本記事は2026年10月16日時点の報道・公表情報に基づいています。容疑者について記載した行為は逮捕容疑であり、有罪が確定したことを意味しません。アカウントの登録・売買経緯については捜査関係者の説明として報じられた内容です。



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