ヤクザは規制できるのに少年グループは止められない? 相模原17歳殺人事件から考える「犯罪予備集団」と日本の法制度

ヤクザと少年グループの規制の違いを表現した、夜の街に少年たち・警察車両・法律・SNSを配置したイメージ画像。 社会・事件

17歳が死亡するまで、この集団を止める方法はなかったのか

2026年8月、相模原市の農道で高校2年の男子生徒(17)が暴行を受け、その後死亡した。

神奈川県警は9月20日、16歳と17歳の少年4人を殺人の疑いで再逮捕した。4人は、それ以前に現場に一緒にいた14歳の男子中学生に暴行を加えてけがをさせたとして逮捕されていた。

捜査関係者への取材では、少年らが現場を離れる際、中学生に警察へ通報しないよう口止めしたとも報じられている。また、死亡した高校生らが乗っていたバイクを、少年らが乗る車が1キロ以上追跡していたとされている。

もちろん、事件の詳しい経緯や4人それぞれの刑事責任については今後の捜査・司法手続きによって明らかにされるべきであり、逮捕された段階で有罪と決めつけることはできない。

しかし、この事件から考えたいことがある。

なぜ人が死亡するほどの事件になる前に、危険な少年グループへ介入することはできないのか。

暴力団であれば、暴力団対策法によって通常の市民とは異なる様々な規制が存在する。それなら、暴力団ではなくても、暴行、恐喝、威圧、口止めなどを繰り返す危険なグループには、どこまで予防的に介入できるのだろうか。

これは「少年をもっと厳罰化すればいい」という単純な話ではない。

犯罪を犯した後に罰する制度ではなく、重大犯罪に成長する前の集団をどう扱うのか。

そこを考える必要がある。

「ヤクザなら集まっただけで逮捕」は正確ではない

まず整理しておきたい。

暴力団員だからという理由だけで、数人が一緒に歩いたり食事をしたりすれば直ちに逮捕されるわけではない。

しかし、日本には「暴力団という組織」を対象とした特別な規制制度が存在する。

暴力団対策法では、一定の条件を満たした団体を指定暴力団として指定し、構成員が組織の威力を利用して行う不当要求などについて、中止命令や再発防止命令を出すことができる。

さらに対立抗争が激化した場合には事務所の使用制限も可能だ。

特定抗争指定暴力団等については、警戒区域内で事務所の新設、対立組織構成員へのつきまとい、相手組織の事務所付近でのうろつき、多数での集合、指定された事務所への立入りなども禁止される。

つまり暴力団については、個々の殺人、傷害、恐喝が発生するたびに刑法だけで対応するのではなく、組織の性質と危険性そのものを前提にした予防的な規制が用意されている。

では「暴力団ではない悪いグループ」はどうなるのか

ここから話が難しくなる。

たとえば地元に10人ほどの若者グループが存在するとする。

メンバーの一部には暴行歴がある。恐喝の噂もある。SNSには威圧的な動画を投稿している。周囲の中高生から恐れられている。そして先輩から後輩へ人間関係が広がっている。

しかし、それだけで「このグループを解散させる」「メンバー同士を会わせない」とする一般的な制度は、日本には存在しない。

当然でもある。

日本国憲法は集会・結社の自由を保障している。刺青がある、服装が派手である、不良っぽい、友人に犯罪歴がある――そんな理由だけで警察が人間関係を解体できる社会にしてしまえば、別の重大な問題が生じる。

だから日本の刑事法は基本的に、「誰と付き合っているか」より「何をしたか」を見る。

暴行すれば暴行罪や傷害罪。金を脅し取れば恐喝罪。強盗をすれば強盗罪。犯罪を共同で実行すれば共犯として処罰する。

さらに刑法208条の2には「凶器準備集合及び結集罪」がある。2人以上が他人の生命、身体または財産に共同で危害を加える目的で集まり、凶器を準備している場合などには、実際の襲撃前でも処罰対象になり得る。

つまり日本にも犯罪が完成する前に介入する法律は存在する。

ただし、対象となる要件はかなり具体的だ。

少年の場合には「ぐ犯」という仕組みもある

さらに少年については、大人とは違う予防的な制度がある。

少年法には「ぐ犯少年」という仕組みがあり、一定の事情があり、その性格や環境などから将来犯罪を犯すおそれがある少年について、家庭裁判所などにつなぐことができる。

警察の少年警察活動規則でも、ぐ犯少年を発見した場合には調査を行い、14歳以上18歳未満で必要と判断されるケースでは家庭裁判所への送致や、場合によっては児童相談所への通告を行う仕組みが定められている。

だから「犯罪を起こすまで警察は一切何もできない」というわけでもない。

問題は、ここからだ。

警察庁自身が「昔の暴走族とは違う」と認め始めている

2025年2月、警察庁は全国の警察に対し、「少年非行情勢の変容を踏まえた非行集団等に対する実態把握及び対策の強化について」という通達を出した。

この文書は非常に重要だ。

警察庁は、SNSや繁華街での深夜徘徊などを通じて、非行少年同士の「緩やかなネットワーク」が生まれていると指摘している。

昔の暴走族のような明確な階層構造を持たず、必ずしも同じメンバーで繰り返し犯罪をするわけでもない。

だから実態が見えにくい。

しかし、そのネットワークの中では犯罪実行者募集情報が交換されたり、違法薬物の売買などが容認・助長されたりするケースがあり、さらにそこで作られた人間関係が将来の「匿名・流動型犯罪グループ」の結成の核になる事例も認められるとしている。

警察庁は、LINE、Instagram、XなどのSNS、匿名性の高い通信アプリ、サイバーパトロール、事件で押収した携帯電話の解析なども使って、その人間関係を把握するよう全国警察に求めている。

これは非常に大きな変化だ。

国自身が、「犯罪者になった少年」だけでなく、「犯罪集団へ成長する可能性のあるネットワーク」を見始めている。

SNS時代には「不良グループ」の作られ方そのものが変わった

昔から不良文化は存在した。

暴走族、カラーギャング、不良グループ、いわゆる半グレ。

しかし昔は、基本的には地域単位だった。

同じ学校、同じ駅、同じ繁華街、地元の先輩後輩。

ところがスマートフォンとSNSによって状況が変わった。

YouTube、TikTok、Instagram、Xなどを開けば、地元では絶対に接点を持たなかった人間の生活や価値観まで毎日見ることができる。

ケンカ、武勇伝、刺青、威圧的な振る舞い、「ワルからの成り上がり」。そうした要素をエンターテインメントとして扱うコンテンツも存在する。

BreakingDownのような格闘技コンテンツについても、番組そのものと少年犯罪との因果関係を示す根拠がない以上、「これを見たから犯罪者になる」と断定するべきではない。

一方で、そこから一部分だけを切り取り、「強い」「怖い」「ワルい」「有名になる」という要素を若年層が模倣する可能性については検討する価値がある。

昔の学校で言えば「プロレス技を真似するからプロレスごっこ禁止」という話に少し似ている。

ただし現代には決定的な違いがある。

今は真似した本人が発信者になれる。

真似する。撮影する。投稿する。再生される。コメントが付く。フォロワーが増える。

さらに刺激の強い動画を投稿する。

そして同じ価値観を持つ者同士がSNS上でつながる。

単純な「テレビの影響」とは違う循環が存在する。

その先に「闇バイト」「トクリュウ」がある

警察庁が特に警戒しているのが、匿名・流動型犯罪グループ、いわゆる「トクリュウ」だ。

従来の暴力団とは違い、明確な組長、事務所、上下関係、固定メンバーを持たない。

SNSなどで人間を集め、役割を細分化し、実行役を使い捨てながら詐欺、強盗、窃盗などを繰り返す。

警察庁によると、2025年に刑法犯で検挙された少年は2万4,416人。4年連続で増加した。

さらに、匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる資金獲得犯罪の検挙人員のうち、詐欺では約1割、強盗では約4割を少年が占めた

これは「一部の不良少年だけの問題」と片付けにくい数字だ。

犯罪実行者募集では「高額」「即日即金」「ホワイト案件」などの言葉で応募させ、免許証や顔写真などを送らせた後、辞めようとすると本人や家族への危害をほのめかして犯罪を続けさせる手口も確認されている。

若者が最初から強盗をやるつもりで犯罪組織に入るとは限らない。

最初は友人。

次に先輩。

次に小遣い稼ぎ。

そして一度参加したことで弱みを握られ、抜けられなくなる。

だから「犯罪をやった人間を逮捕する」だけでは後追いになってしまう。

では海外ではどうしているのか

ここで日本と海外を比較してみる。

代表的な制度特徴
日本暴対法・刑法・少年法など暴力団には組織を対象とした特別規制。それ以外は具体的犯罪行為を中心に対応
カナダ刑法467.11条など犯罪組織の犯罪能力を高める目的で、その活動に参加・貢献する行為を犯罪化
英国Gang Injunction裁判所が場所・交友・行動などを制限し、将来のギャング暴力等を予防
イタリア刑法416-bis威圧力と服従・沈黙を生み出すマフィア型組織への参加自体を処罰
米国RICOなど継続的な犯罪活動を行う組織・共謀関係をまとめて追及

カナダは「犯罪組織への参加・貢献」まで見る

カナダ刑法467.11条では、犯罪組織が犯罪を行う能力を高める目的で、その活動に故意に参加・貢献すること自体を犯罪としている。

しかも検察側は、組織が実際に目的の犯罪を成功させたことまで必ずしも証明する必要はない。

さらにカナダには、犯罪組織が18歳未満の者を勧誘、誘引、強要する行為を処罰する規定も存在する。

もちろん単に「悪い友達と一緒にいた」だけで処罰する制度ではない。

犯罪組織の犯罪遂行能力を高める目的や、本人の認識などが必要になる。

しかし日本と比較すると、組織への関与そのものを刑法上の対象として捉える範囲が広い

英国は「逮捕」だけでなく、人間関係や行動を制限する

英国にはGang Injunctionと呼ばれる民事上の差止制度がある。

警察や地方自治体が裁判所に申し立て、ギャング関連の暴力や薬物取引への関与が認められ、将来の行為防止などのため必要と判断されれば、裁判所が禁止事項や義務を課すことができる。

特定の場所へ行かない。

特定の人物と一緒にいない。

場合によっては更生プログラムなどへ参加する。

14歳以上の子供についても制度の対象となり得る。

ここで重要なのは、発想である。

「次に犯罪をやったら逮捕する」だけではなく、「次の犯罪が起きないよう裁判所命令で行動を制御する」という選択肢が存在する。

イタリアでは「恐怖で地域を黙らせること」自体が重要な要素になる

マフィアとの長い戦いを経験してきたイタリアには、刑法416-bis条がある。

特徴的なのは、単に3人以上で犯罪を計画したかどうかだけではないことだ。

組織の結び付きが持つ「威圧力」を利用し、それによって周囲に服従や沈黙を生じさせ、犯罪や不当利益の獲得などを行うマフィア型組織を対象としている。

今回の相模原事件でも、「警察に言うな」と口止めしたとの捜査関係者情報が報道されている。

もちろん、それだけでイタリア法上のマフィア型組織に相当するなどと言うことはできない。

しかし「集団の怖さによって周囲が話せなくなる」という現象を、犯罪組織対策で重要な要素として捉えている点は参考になる。

米国のRICOも「ただのギャング所属罪」ではない

米国で有名なのがRICO法だ。

映画などの影響で「ギャングのメンバーならRICOで一網打尽」というイメージを持たれやすいが、実際にはもっと複雑だ。

単なる所属を処罰するのではなく、犯罪組織(enterprise)を通じて継続的な犯罪活動を行ったことや、その共謀関係などを立証して組織全体を追及する。

米司法省は2026年にも、殺人、薬物、銃器犯罪などに関わったとされるストリートギャングに対してRICOを使った事件を発表している。

こちらも「不良グループだから逮捕」という法律ではない。

しかし、複数の殺人・強盗・薬物犯罪などをバラバラの事件として処理するだけでなく、背後にある犯罪組織を一つの構造として追及するという考え方が強い。

日本は本当に「甘すぎる」のか

ここで最初の疑問に戻る。

日本は先進国なのに、こうした犯罪グループへの対応が甘すぎるのではないか。

海外と比較すると、そう感じる部分は確かにある。

日本では暴力団については、事務所、加入強要、不当要求、多数集合などまで視野に入れた特別な規制体系を作ってきた。

一方、暴力団ではない若者集団については、暴行、傷害、恐喝、強盗など具体的犯罪を一つずつ処理する色彩が強い。

しかし、「危険そうだから交友を禁止する」という制度にも重大な副作用がある。

どこからが犯罪集団なのか。

誰が判断するのか。

SNSでつながっているだけの人物まで構成員とするのか。

誤認された少年の交友関係を国家が制限してよいのか。

こうした問題は、結社の自由、プライバシー、適正手続と直接ぶつかる。

したがって「海外の制度をそのまま日本へ入れればいい」という話でもない。

むしろ問うべきなのは、重大犯罪が発生する前に介入でき、なおかつ無関係な若者の自由を不当に奪わない制度を作れるのかということだ。

すでに警察は「犯罪予備ネットワーク」を見始めている

重要なのは、日本が完全に何もしていないわけではないことだ。

警察庁は匿名・流動型犯罪グループについて、暴力団、特殊詐欺、少年、繁華街、暴走族など担当部門の垣根を越えて情報を集約する体制を整備している。

2024年4月には全国警察でトクリュウ対策の専従体制を整備。

さらに2025年の少年対策通達では、事件検挙だけでなく、職務質問、交通違反取締り、街頭補導、少年相談、サイバーパトロールなどを通じ、非行集団とその周辺の人間関係を把握するよう求めている。

警察自身が気付き始めている。

昔の暴走族だけを見ていても、現代の犯罪集団は見つからない。

事務所もない。

組長もいない。

制服もない。

名前さえないかもしれない。

LINEのグループ、InstagramのDM、TikTok、繁華街、学校の先輩後輩。

その緩いつながりの一部が犯罪へ進み、別の犯罪集団と接続する。

これがSNS時代の新しい問題だ。

「殺人事件になってから逮捕」では遅い

相模原の17歳死亡事件について、今後の捜査によってどこまで背景が解明されるのかは分からない。

しかし、一人の17歳が死亡したという結果だけは変わらない。

だから考える必要がある。

殺人まで行かなければならなかったのか。

暴行の段階。

恐喝の段階。

脅迫の段階。

集団で一人を追い詰める段階。

犯罪を自慢する段階。

少年を勧誘する段階。

SNSを通じて危険な人間関係が形成される段階。

そのどこかで社会が介入できなかったのか。

暴力団対策では、日本は長い時間をかけて「重大事件が発生してから逮捕するだけでは足りない」という考え方にたどり着いた。

ところが現在、犯罪組織の形そのものが変化している。

看板を掲げるヤクザから、名前すら持たない流動的な犯罪ネットワークへ。

法律や制度も、その変化に追いつくことが求められている。

少年を片っ端から監視すればいいわけではない。

不良文化を禁止すれば解決するわけでもない。

YouTubeやTikTok、BreakingDownを禁止すれば少年犯罪がなくなるわけでもない。

必要なのは、表現や交友の自由と犯罪予防の境界を慎重に引きながら、暴力・恐喝・犯罪勧誘・口止めを常態化させる集団を、重大事件になる前にどう社会から切り離すかという議論ではないだろうか。

「ヤクザではないから普通の若者グループとして扱う」。

その考え方だけで、SNS時代の犯罪集団に対応できるのか。

相模原で起きた事件は、その問いを突き付けている。


【路上と書斎・SNS時代の少年犯罪シリーズ】
次回以降は、少年グループがどのように形成されるのか、YouTube・TikTokなどで可視化された「ワル文化」と模倣、闇バイトやトクリュウへの接続、さらに海外の少年ギャング対策について掘り下げていく。

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