79億円の営業赤字予想。
この数字だけを見れば、「出前館はかなり厳しい」と考えるのが普通だろう。
ところが株式市場では、まったく逆の動きが起きている。
出前館の株価は業績予想の下方修正後、一時112円まで下落したものの、その後は急反発。2026年8月26日には174円まで上昇し、連日の年初来高値更新となった。
赤字が減ったわけではない。業績が突然回復したわけでもない。
それなのに、なぜ出前館は買われているのか。
ここには、いま日本のフードデリバリー業界で進んでいる「生き残り競争」が大きく関係している可能性がある。
出前館は40億円赤字予想から79億円赤字予想へ
まず確認しておきたいのは、出前館の業績そのものが改善したから株価が上昇したわけではないという点だ。
出前館は2026年7月15日、2026年8月期の通期業績予想を下方修正した。
営業損益は従来予想の40億円の赤字から、79億円の赤字へ悪化。
第3四半期累計でも赤字幅は前年同期から拡大している。
理由として示されたのは、オーダー数やGMV(流通取引総額)が期初の想定を下回る見込みとなったことだ。
つまり、少なくとも足元の数字だけを見るなら、楽観できる状況ではない。
それでも112円から170円台まで戻ってきた
業績予想の下方修正を受け、出前館株は一時112円まで下落した。
ところが、その後は反転。
8月26日には174円まで上昇し、前日比12円高、率にして7.4%の上昇となった。
112円から174円なら、単純計算で約55%の上昇だ。
では市場は何を見ているのか。
一つの材料として浮上しているのが、競合サービス「menu」の撤退である。
menuが9月30日で終了 競争相手がまた一つ消える
menuは2026年9月30日をもってフードデリバリー・テイクアウトサービスを終了する。
同社は事業環境の変化を理由に、今後の持続的なサービス提供が困難になったとしている。
これは出前館にとって無関係な話ではない。
フードデリバリー市場では、利用者だけでなく加盟店、そして配達員まで各社で奪い合う。
その競争相手が一社、市場からいなくなる。
市場が「競争環境が少し楽になる」と考えるのは不思議ではない。
ただし、ここで話を飛躍させてはいけない。
menuが撤退するから、その利用者が全部出前館へ移るわけではない。
Uber Eatsへ移る人もいるだろうし、別のサービスを利用する人もいる。そもそもデリバリー自体の利用を減らす人もいる。
競合撤退は出前館にとってプラス材料になり得るが、それだけで出前館の勝利が決まったわけではない。
もう一つの材料、大株主による買い増し
もう一つ市場で注目されているのが、SHIN JUNGHO氏による出前館株の取得だ。
大量保有報告書によれば、SHIN氏は7月時点で出前館株を5.18%保有していることが明らかになった。
さらに8月18日に提出された変更報告書では、保有割合が5.18%から6.22%へ上昇している。
短期間でさらに買い増したことになる。
これについて市場ではさまざまな思惑が広がっている。
ただし、大量保有報告書上の保有目的は中長期的な資産保有であり、重要提案行為などを予定していないとされている。
したがって、現時点で企業再編などを事実のように語るのは早い。
分かっている事実は、6%を超える株式を保有するまで買い増しているというところまでだ。
さらに不思議なのは、赤字なのに出前館が攻め続けていること
ここがROJOTOで以前から追ってきた部分でもある。
出前館は赤字だからといって、守りに入っているわけではない。
むしろ逆だ。
店頭と同じ価格で注文できる「お店価格で出前館」を全国へ拡大している。
対象店舗は2026年6月1日時点で約2万1000店舗だったが、8月1日時点では約2万5000店舗まで増加した。
さらに送料無料施策など、利用者側から見ればかなり強力な価格施策も続けてきた。
当然ながら、こうした施策にはコストがかかる。
だから現在の出前館を見ると、一見すると矛盾している。
赤字は拡大している。それでも利用者獲得のアクセルを緩めない。
しかし、競争相手が市場から一社、また一社と消えていくのであれば、この戦い方にも別の見え方が出てくる。
これは「最後まで立っていた会社が勝つ」消耗戦なのか
フードデリバリーという商売は、単純に料理を運べば成立するわけではない。
注文する客が必要だ。
加盟店が必要だ。
そして実際に料理を運ぶ配達員も必要になる。
三者を同時に集めなければサービスとして成立しない。
だから規模が小さくなるほど苦しくなる。
注文が少なければ配達員が離れる。
配達員が減れば料理が届きにくくなる。
利便性が落ちれば利用者も減る。
利用者が減れば加盟店にとっても魅力がなくなる。
この悪循環に入ったサービスを立て直すのは簡単ではない。
逆に言えば、巨大な赤字を出しながらでも一定の規模を維持し、競合が撤退するまで市場に残ることができれば、最後に競争環境が変わる可能性はある。
今回の出前館株の急反発には、そんな「生き残った側への期待」も含まれているのかもしれない。
ただし「menuが消えたから出前館安泰」は危険
ここは冷静に見なければならない。
出前館の営業赤字予想79億円という数字は消えていない。
しかも会社自身が、オーダー数やGMVが当初想定を下回る見込みだとして業績予想を引き下げている。
menuが撤退しただけで、この問題が解決するわけではない。
さらに、日本のフードデリバリー市場にはUber Eatsという巨大な競争相手がいる。
新規勢も市場獲得を狙っている。
だから出前館にとって重要なのは、「競争相手が減った」ということではない。
競争相手が減った市場で、本当に注文を増やして赤字を縮小できるのか。
結局はここである。
株価より次の決算を見るべきだ
112円から170円台まで急反発した数字だけを見ると、出前館が一気に復活したようにも見える。
しかし、株価は将来への期待でも動く。
事業の収益力そのものとは別物だ。
だから今回の上昇を「出前館復活」と結論づけるのはまだ早い。
見るべき数字は、これからだ。
menu撤退後に注文数がどう変わるのか。
GMVは増えるのか。
「お店価格」「送料無料」で獲得した利用者を維持できるのか。
そして何より、79億円まで膨らんだ営業赤字を縮小できるのか。
ここまで数字で確認できて初めて、「残った者勝ちだった」と言える。
出前館は勝者になるのか、それとも次に試される側なのか
menuの撤退によって、日本のフードデリバリー業界はまた一段階、集約が進む。
競争相手が減ること自体は出前館にとって悪い話ではない。
大株主による買い増しもあり、株式市場が出前館の将来に改めて注目していることも分かる。
だが、79億円の営業赤字予想という現実も同時に存在する。
だから今はまだ「出前館が勝った」と言う段階ではない。
むしろ、競争相手が消え始めたいまこそ、出前館自身の実力が試される。
競争が減った市場で注文を取り込み、赤字を縮め、本当に利益を出せる会社へ変われるのか。
それとも価格競争を続けた結果、さらに資金を消耗するのか。
株価174円はゴールではない。
「出前館は最後まで残れば勝てるのか」という問いに対する答えは、これから出てくる決算の数字が示すことになる。


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