「振込手数料だから、これくらいならいいだろう」では済みません。
公正取引委員会は2026年8月26日、家電の配送や設置工事などを手掛ける株式会社ジェイトップに対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法、いわゆるフリーランス法に基づく勧告を行いました。
問題になったのは、配送や家電設置などを委託していたフリーランス138人への報酬です。
ジェイトップは、報酬を銀行口座へ振り込む際、実際に金融機関へ支払っていた振込手数料よりも多い金額をフリーランス側の報酬から差し引いていました。
その総額は、48万1031円。
金額だけを見て「48万円か」と流してはいけません。
これは138人もの個人事業主の報酬から、本来差し引くべきではない金額を減らしていた問題です。
ジェイトップは何をしたのか
公正取引委員会によると、ジェイトップは、自社が請け負った家庭用電気製品の運送、設置工事、クリーニングなどをフリーランスへ業務委託していました。
対象となったのは138人です。
ジェイトップとフリーランス側では、振込手数料をフリーランスが負担すること自体について、書面または電磁的方法による合意がありました。
しかし問題は、そこからです。
ジェイトップが実際に金融機関へ支払っていた振込手数料を超える金額まで、フリーランスの報酬から差し引いていました。
公取委が認定した対象期間は、2024年11月1日から2025年11月30日まで。
減額された総額は48万1031円でした。
公取委はこれを、フリーランス法第5条第1項第2号が禁止する「報酬の減額」に該当すると判断しています。
「手数料を負担すると合意した」から何をしてもいいわけではない
今回の事件で重要なのはここでしょう。
フリーランス側が振込手数料を負担すると合意していたとしても、発注側が実際に負担している金額以上を勝手に差し引いていいわけではありません。
報酬10万円と決めた仕事なら、基本になるのは10万円です。
そこから発注側の都合で少しずつ金額を削っていけば、「契約した報酬額」と「実際に受け取れる金額」が違ってきます。
1人あたりでは小さく見える金額でも、それを何十人、何百人と積み上げれば金額は大きくなります。
今回、138人合計で48万1031円です。
問題は「1人あたり数千円程度だからいい」という話ではありません。発注者が受注者の報酬をどう扱っているのか、という問題です。
ジェイトップは全額返還 それでも勧告は出た
ジェイトップは2026年8月5日までに、減額していた金額を対象となったフリーランスへ支払っています。
しかし、「返したから終わり」にはなりませんでした。
公正取引委員会は8月26日、ジェイトップに対して正式に勧告。
今後、フリーランス側に責任がないにもかかわらず報酬を減額しないことなどを求めています。
報道に対してジェイトップは、実際の手数料を上回る金額を差し引いていたとの認識はなかったと説明し、法令順守や再発防止を進める考えを示しています。
しかし、報酬を支払う側である以上、「認識していなかった」で済ませていい部分ではないでしょう。
フリーランスにとって報酬は売上そのものです。
しかも運輸・郵便業はフリーランス法の措置件数で3位
今回のジェイトップだけを見て、「一社のミスだった」と片付けるのも危険です。
公正取引委員会が公表した2025年度のフリーランス法運用状況を見ると、違反被疑事件のうち勧告または指導の措置が取られた件数は1552件。
業種別では、
- 情報通信業:575件(37.0%)
- 学術研究、専門・技術サービス業:326件(21.0%)
- 運輸業・郵便業:135件(8.7%)
となっています。
運輸・郵便業は3番目に多いのです。
配送や物流の世界では、会社員だけでなく業務委託の個人事業主が大量に働いています。
会社が車両も人員もすべて抱えるのではなく、仕事をフリーランスへ委託することで事業を回す。
この仕組みそのものが悪いわけではありません。
問題は、発注側が「雇用している社員ではないから」という理由で、受注側を弱い立場として扱い始めたときです。
個人事業主は「何でも自己責任」ではない
フリーランスや個人事業主について語ると、すぐに「自己責任」という言葉が出てきます。
確かに、仕事を受けるかどうか、経費をどう管理するか、利益をどう残すかは自分で判断する世界です。
しかし、だからといって発注企業が契約した報酬を好きに減らしていい理由にはなりません。
税金も自分で払う。
保険も自分で用意する。
車両や道具も自分で用意する仕事は珍しくありません。
そのうえ発注側から報酬まで削られたら、事業として成り立たなくなります。
「個人事業主なんだから我慢しろ」は、契約社会では通用しません。
2026年から振込手数料の扱いはさらに厳しくなった
そして今回、もう一つ重要な点があります。
公取委はフリーランス法の考え方を改正しており、2026年1月1日以降に行われる1か月以上の業務委託については、フリーランスとの合意があったとしても、振込手数料を報酬から差し引けば「報酬の減額」に該当するという扱いになっています。
つまり発注企業側には、これまで以上に明確な対応が求められるということです。
「昔からそうしていた」
「契約書に書いてある」
「数百円だから問題ない」
そうした感覚でフリーランスの報酬を扱えば、公取委から問題視される可能性があります。
フリーランスを安い調整弁として使う時代は終わらせるべきだ
企業が固定人件費を抱えず、必要な仕事を業務委託する。
企業側にとってフリーランスは便利な存在です。
しかし便利だからといって、発注側が一方的に有利な条件を押し付けていいわけではありません。
今回ジェイトップが委託していたのは、家電の運送や設置などです。
現場へ行き、商品を運び、設置し、仕事を完了させる人間がいなければ、事業そのものが成立しません。
仕事を実際に動かしている人間の報酬を軽く扱えば、最後には現場から人が消えます。
フリーランス法は2024年11月に施行されたばかりですが、2025年度だけですでに1552件の勧告・指導が行われています。
これは、「一部の悪質企業だけの問題」とは言いにくい数字です。
特に運輸・郵便業で135件の措置が出ている事実は、配送や物流に関わる個人事業主にとって他人事ではありません。
フリーランスだから安く扱っていい。
個人事業主だから多少削っても黙っている。
もし発注側にそんな感覚が残っているのであれば、今回のジェイトップへの勧告は一つの警告になるでしょう。
業務委託とは、上下関係ではありません。
仕事を発注する事業者と、それを受ける事業者との取引です。
働いた人間の報酬を正しく払う。
まずはそこからです。



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