出前館から、配達員向けに「サイレントカスタマー」についてのお知らせが届いていた。
サイレントカスタマー。つまり、モノ言わぬお客様。
最初にこの言葉を見たとき、正直少し身構えた。
また配達員に「もっと気を利かせろ」「もっと察しろ」「お客様の小さな違和感を見逃すな」という話なのかと思ったからだ。
現場で走っている側からすれば、言いたいことはある。
アプリが重い日もある。
配達先が確認しづらい日もある。
完了操作がうまく通らない日もある。
実際に、システム障害やアプリ不調で現場が混乱することもある。
だから、そういう状況を経験している配達員ほど、「サイレントカスタマーの前に、まずアプリを安定させてくれよ」とツッコミたくなる気持ちは分かる。
自分も最初は、少しそう思った。
ただ、出前館のお知らせの中身をちゃんと読んでみると、印象が変わった。
これは、客の心を読めという話ではなかった。
無口なお客様を疑えという話でもなかった。
出前館が言っていたのは、かなりシンプルだった。
お客様からの要望を読むこと。
届ける前に配達完了を押さないこと。
商品状態を外から見える範囲で確認すること。
つまり、普通の配達を普通にやろうという話だった。
ここで、この記事の見方は変わった。
今回考えたいのは、出前館が正しいか間違っているかではない。
こういうお知らせを見たときに、ただSNSで茶化して終わるのか。
それとも、自分の仕事を見直す材料にするのか。
一人で働く個人事業主にとって、そこに大きな差が出ると思っている。
サイレントカスタマーとは、文句を言わずに去るお客様のこと
サイレントカスタマーとは、不満があっても直接クレームを言わず、黙って離れていくお客様のことだ。
配達員に文句を言うわけではない。
出前館に問い合わせるわけでもない。
店にクレームを入れるわけでもない。
ただ、次から頼まない。
これが商売としては怖い。
なぜなら、理由が分からないからだ。
料理が冷めていたのか。
置き場所が違ったのか。
チャイムを鳴らしてほしかったのか。
届いていないのに完了通知が来て不安になったのか。
商品が傾いていて、開けた瞬間にがっかりしたのか。
お客様が何も言わなければ、こちらは「問題なく終わった」と思ってしまう。
でも、お客様の中では小さな不満が残っているかもしれない。
そして、その小さな不満が「もう次は使わない」という選択につながる。
この考え方自体は、かなり商売の基本だと思う。
クレームが来ないことと、満足されていることは同じではない。
ここを分かっているかどうかは、配達員に限らず、個人事業主にとって大きい。
出前館のお知らせは、意識高い説教ではなかった
今回の出前館のお知らせで紹介されていたケースは、かなり現場的だった。
ひとつ目は、「お客様からのご要望」の見落とし。
たとえば、「チャイムを鳴らしてください」と書いてあるのに、鳴らさずに置き配で完了してしまうケースだ。
これは普通にまずい。
お客様はチャイムが鳴ると思って待っている。
しかし鳴らない。
結果として商品に気づくのが遅れ、料理が冷める。
配達員側は「置いたから完了」と思っていても、お客様側では「なぜ鳴らしてくれなかったのか」という不満になる。
これは気持ちを読めという話ではない。
書いてある要望を読むだけの話だ。
ふたつ目は、お届け前の配達完了。
これもかなり大事だ。
配達完了を押すと、お客様には完了通知が届く。
実際にはまだ届いていないのに通知が来れば、お客様は探す。
玄関を見る。
外を見る。
アプリを見る。
「どこに置かれたんだ?」と不安になる。
問い合わせの手間も発生する。
これは、お客様から見れば不信感につながる。
配達員側にどんな事情があったとしても、届いていないのに「届きました」と通知されるのは、体験として怖い。
三つ目は、商品状態の確認。
袋の外から見える範囲で、明らかに傾いていないか、汁漏れしていないか、崩れていないかを見る。
これも特別な接客ではない。
商品を開けた瞬間に中身が崩れていたら、お客様はがっかりする。
楽しみにしていた食事が台無しになったと感じる。
もちろん、店側の梱包や料理の性質もある。
配達員だけで全部を防げるわけではない。
それでも、外から見て明らかに気になる状態なら、ひと声添えるだけで印象は変わる。
こうして見ると、今回のお知らせはそこまで変なことを言っていない。
むしろ、かなり基本的な話だ。
サイレントカスタマー対策は、客の心を読むことではない
ここは誤解したくない。
サイレントカスタマー対策という言葉だけを見ると、「お客様の小さな反応を全部読み取れ」という話に見える。
だが、今回の出前館のお知らせに限れば、そういう話ではなかった。
無口なお客様を疑う話ではない。
病気や障害で反応が薄い人を、勝手に不満客として扱う話でもない。
会話が苦手な人、急いでいる人、外国人のお客様、ただ静かに受け取りたい人。
そういう人たちの内面を配達員が勝手に読む必要はない。
配達員の仕事は、お客様の心を診断することではない。
やるべきことはもっと単純だ。
書いてある要望を読む。
届けてから完了する。
商品状態を見る。
この基本を外さないこと。
つまり、サイレントカスタマー対策とは、客の心を読むことではない。
自分の雑さで、黙って離れる理由を作らないことだ。
普通にピックして、普通に届ける。それが一番むずかしい
配達の基本は、正直これだと思っている。
普通にピックする。
普通に運ぶ。
普通に届ける。
商品を崩さない。
指定を読む。
完了操作を正しいタイミングで行う。
余計なことをしない。
これだけだ。
ただ、この「普通」が一番むずかしい。
ピークタイムで焦っている。
次の案件が鳴っている。
雨が降っている。
坂道が多い。
店で待たされている。
アプリが重い。
体力が落ちている。
気持ちが荒れている。
こういう時に、普通の精度が落ちる。
要望を読み飛ばす。
完了操作を焦る。
商品状態を見ない。
置き場所を雑にする。
そういう小さな雑さが、お客様から見れば「もう頼まない」に変わることがある。
だから、出前館のお知らせは、配達員に高度な接客を求めているわけではない。
むしろ、「普通の配達を崩さないでください」と言っているだけに近い。
そして、その普通を積み重ねることが、一人仕事の信用になる。
SNSで茶化して終わる配達員は、そこで仕事が止まる
もちろん、運営からのお知らせに対してツッコミたくなる気持ちは分かる。
現場には現場の事情がある。
アプリ不調もある。
店待ちもある。
理不尽な注文もある。
お客様側の勘違いもある。
配達員だけが全部を背負うのは違う。
そこは大前提だ。
ただ、それでも今回のお知らせを「また意識高いこと言ってる」と笑って終わるのは、少しもったいない。
なぜなら、書かれていることはかなり基本だからだ。
要望を読む。
届けてから完了する。
商品状態を見る。
これを笑ってしまうなら、それは運営批判というより、自分の仕事の基準を下げている可能性がある。
配達員は個人事業主だ。
一人で走る。
一人で判断する。
一人で完結する。
会社員のように、上司が毎日見ているわけではない。
先輩が横について注意してくれるわけでもない。
だからこそ、こういうお知らせをどう受け取るかが大事になる。
茶化して終わるのか。
自分の仕事を見直す材料にするのか。
その差は、地味に大きい。
一人仕事は、誰も注意してくれないから怖い
昔は、嫌でも組織に入って働く時代だった。
もちろん、良いことばかりではない。
理不尽な上司もいた。
面倒な人間関係もあった。
パワハラに近い指導もあった。
今なら通用しないような職場文化もあった。
正直、嫌なことも多かった。
ただ、組織の中には、良くも悪くも仕事の基準を叩き込まれる場面があった。
報告の仕方。
約束の守り方。
お客様への対応。
ミスをした後の立て直し方。
怒られた後の修正の仕方。
仕事を「自分だけの都合」で終わらせない感覚。
そういうものを、面倒な人間関係の中で覚える部分もあった。
今は違う。
Uber、出前館、フリーランス、副業、在宅ワーク。
一人で働ける仕事が増えた。
これは自由だ。
でも、自由は放置でもある。
誰も注意しない。
誰も怒らない。
誰も見ていない。
その代わり、自分で自分の仕事を見直すしかない。
だから、運営からのお知らせも、ただの説教として流すのではなく、自分の仕事を確認するチェックリストとして使ったほうがいい。
作業員として運ぶか、商売人として届けるか
配達の仕事は、外から見れば単純に見える。
店で受け取る。
運ぶ。
届ける。
それだけだ。
でも、商売として見ると少し違う。
お客様は、食事を楽しみにしている。
店は、料理を無事に届けてほしいと思っている。
プラットフォームは、次も使ってもらいたいと思っている。
配達員は、その間をつなぐ。
もちろん、配達員が全部を背負う必要はない。
店の梱包の問題もある。
アプリの問題もある。
お客様側の勘違いもある。
それでも、自分が担当する範囲の「普通」は守れる。
要望を読む。
完了操作を焦らない。
商品状態を見る。
置き場所を間違えない。
この範囲を守るだけでも、仕事の質は変わる。
作業員として運ぶだけなら、通知はうるさい説教に見える。
商売人として届けるなら、通知は自分の仕事を見直す教材に見える。
同じ文章を読んでも、受け取り方で差が出る。
編集後記:普通の配達を、普通に続けるのが一番むずかしい
今回の出前館のお知らせは、最初に言葉だけを見ると少し構えてしまう内容だった。
サイレントカスタマー。
モノ言わぬお客様。
そう聞くと、配達員に「もっと察しろ」と言っているようにも見える。
しかし中身を読むと、かなり現実的だった。
要望を読む。
届けてから完了する。
商品状態を見る。
これは、配達員に超人的な接客を求める話ではない。
普通の仕事を普通にやろうという話だ。
ただ、その普通が難しい。
一人で働いていると、誰も注意してくれない。
少しずつ雑になっても、すぐには分からない。
お客様が黙って離れても、理由は見えない。
だからこそ、こういう通知を笑って終わるのか、自分の仕事を見直す材料にするのかで差が出る。
松下幸之助さんの考え方に「素直な心」というものがある。
何でも従順に受け入れるという意味ではない。
自分の感情や偏見だけで決めつけず、一度まっすぐ受け止めてみる姿勢のことだと思っている。
運営の通知にツッコミを入れるのは簡単だ。
実際、現場には現場の言い分がある。
ただ、その中に使えるものがあるなら、拾ったほうがいい。
出前館のサイレントカスタマー通知は、配達員に客の心を読ませるものではない。
自分の雑さで、黙って離れる理由を作らないための確認だ。
普通にピックして、普通に運んで、普通に届ける。
その普通の精度を上げる。
一人仕事の教養は、こういう小さなところから始まる。
配達員として走るのか。
それとも、自分の仕事を持つ個人事業主として走るのか。
同じ配達でも、見えている景色は変わる。



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