『ラヴ上等』法務省タイアップ撤回――余計なことをするからこうなる。「被害者がいるなら日陰で生きろ」で社会は回るのか

法務省とNetflix『ラヴ上等』のタイアップ撤回をきっかけに、元ヤンや元受刑者の更生と社会復帰について考える記事のイメージ 未分類

Netflixの恋愛リアリティシリーズ『ラヴ上等』シーズン2と法務省のタイアップが、ついに取りやめとなった。

法務省は2026年8月21日、公式にタイアップ中止を発表した。

この件について、まず言いたいことは単純だ。

余計なことをするから、こうなる。

『ラヴ上等』をNetflixで普通に配信していればよかったのである。

元ヤンキーだろうが、過去に問題を起こした人だろうが、男女が集まって恋愛する番組を作りたいのであれば、法律や配信サービスの規約に反しない範囲で好きに作ればいい。

見たい人が見る。

嫌いな人は見ない。

それだけの話だった。

ところが、そこへ法務省が入ってきた。

「更生上等!!」

「立ち直りって、ラヴだ。」

そんなタイアップポスターまで作った。

さらに番組では、出演者の一人が過去について「人に火をつけた」と語る場面があり、大きな批判を呼んだ。

報道によれば、法務省は完成した作品を事前に確認した上でタイアップを決定したと説明している。

つまり、作品をまったく知らずにタイアップしたという話でもない。

だったら、なおさら誰か止めなかったのか。

制作側もそうだ。

法務省側もそうだ。

「人に火をつけた」という過去まで含まれる作品と、法務省の「更生保護」を組み合わせれば、被害者感情も含めて問題になる可能性くらい想像できなかったのだろうか。

法務省がタイアップする必要など最初からなかった。

NetflixはNetflixで、普通に番組を配信していればよかったのである。

法務省は「被害者への配慮」などを受けてタイアップを撤回

法務省は8月21日の発表で、更生保護について、犯罪や非行から立ち直ろうとする人を地域社会の中で支援し、新たな被害者と加害者を生まない社会を作る取り組みだと説明している。

その一方、今回のタイアップをめぐっては、犯罪被害者が「不快感や割り切れない思い」を抱くのではないかという批判など、多くの反響が寄せられた。

そして法務省はタイアップを取りやめ、全国の更生保護施設などにポスター掲示を取りやめるよう周知した。

ここについては理解できる。

法務省という公的機関が、更生保護の広報として何と組むのか。

Netflixが単独で番組を制作・配信する場合とは話が違う。

今回のタイアップは、企画と広報の判断が甘かったと言われても仕方がない。

しかし「被害者がいるなら日陰で生きろ」は別問題だ

ところが、この炎上を追っていると、話が別の方向へ進み始める。

Yahoo!ニュース周辺やSNSでは、

「一度でも道を外した人間は日陰を歩くべき」

「償うなら日陰で生きろ」

「一生日陰で暮らすのが更生や贖罪だ」

といった趣旨の意見まで実際に出ている。

ここまで来ると、法務省のタイアップが適切だったかという話ではない。

一度犯罪や非行をした人間は、その後どこまで社会に戻ることを許されるのか。

という全く別の問題である。

「日陰で生きろ」を本当に適用するとどうなるのか

実際の日本社会を見てみよう。

NHK『ETV特集 罪と赦し ~出所者たちの記録~』では、栃木県で建設会社を経営する廣瀬伸恵さんが取り上げられている。

NHKの番組紹介によれば、廣瀬さん自身が服役経験のある元暴走族総長で、その会社では従業員の8割が出所者や元暴力団員だという。

廣瀬さんは会社を経営しながら、出所した人たちの社会復帰を支えている。

では聞きたい。

この人も社長を辞めなければならないのだろうか。

元暴走族だから。

服役経験があるから。

過去に被害を受けた人がいるかもしれないから。

会社を経営するな。

NHKに出るな。

成功している姿を世間に見せるな。

「日陰で生きろ」という原則を本当に採用するなら、そういう結論になる。

ということで、社長も引退です。

……となるわけがない。

「前科前歴12犯の元受刑者社長」もテレビで紹介されている

テレビ朝日『テレメンタリー』では、さらに強烈な実例が紹介されている。

「前科前歴12犯の元受刑者社長」として紹介された中溝茂寿さんだ。

元受刑者である中溝さんは会社を経営し、犯罪歴のある人たちの雇用と社会復帰にも取り組んでいる。

これも「被害者がいる人間は表舞台に出るな」という理屈ならアウトになる。

社長になるな。

テレビに出るな。

自分の経験を語るな。

目立つな。

はい、こちらも引退です。

そんなことを本当にやったら、更生も社会復帰も何もない。

テレビ東京では2026年にも「元ヤン社長」が堂々と登場

しかもこれは昔の話だけではない。

テレビ東京『家、ついて行ってイイですか?』では、2026年2月に「元ヤン社長の恩返し」として、元暴走族だったという建築会社社長が取り上げられている。

過去がある。

しかし現在は会社を経営している。

そしてテレビにも堂々と出ている。

これが現実の日本社会である。

では『ラヴ上等』について「元ヤンや過去に問題のある人間は表に出るな」と言うなら、この社長もテレビ出演禁止なのだろうか。

こちらも引退ですか?

元ヤン芸能人も全員引退するのか

話は経営者だけではない。

芸能界にも、若い頃の不良経験、暴走族経験、少年院経験などを公にしている人物がいる。

代表的なのが宇梶剛士さんだ。

宇梶さんは暴走族「ブラックエンペラー」の総長を務めた過去や少年院経験を公にし、その後俳優として長年テレビ、映画、舞台などで活動してきた。

竹原慎二さん、品川祐さんなど、自ら若い頃の不良経験を語ってきた著名人もいる。

もちろん、ここで注意しなければならない。

「元ヤンキー」と「犯罪歴」は同じ意味ではない。

単なる不良経験、暴走族経験、少年院・服役経験、刑事事件歴はそれぞれ別のものだ。

しかし「過去に問題がある人間は、被害者への配慮から表舞台に出るべきではない」という非常に広い原則を採用するのであれば、芸能界にもその原則を適用しなければ筋が通らない。

ということで、皆さん引退です。

そんな社会が成立するわけがない。

法務省自身が「社会の一員として生活することを支援する」と言っている

ここで非常に重要なのが、今回タイアップを撤回した法務省自身の言葉である。

法務省は今回の発表で、犯罪被害者の尊厳や心情に十分配慮することと同時に、犯罪や非行をした人が責任と向き合い、再び犯罪に及ぶことなく「社会の一員として生活していくことを支援すること」も安全な社会には欠かせないとしている。

さらに今回の判断は、出演者や、生きづらさを抱える人、過去に罪を犯した人の更生への取り組みを否定するものではないとも説明している。

当たり前である。

刑罰を終えた人間に、

「再犯せず社会復帰してください」

と言いながら、

「ただし成功するな」

「社長になるな」

「テレビに出るな」

「恋愛するな」

「幸せそうにするな」

「被害者の目に入らないよう日陰で生きろ」

では、何のための更生なのか分からない。

それは更生ではなく「死んだように生きろ」ではないのか

人間は過去を消すことはできない。

被害を受けた側が「許せない」と思うこともある。

それも当然だろう。

筆者自身、若い頃は決して褒められた人間ではなかった。

人にひどいことをしたこともあれば、逆にやられたこともある。

現在は家族と普通に暮らしている。

では筆者も、これから一生ひっそりと暮らし、何かを始めたり成功したり、人前に出たりしてはいけないのだろうか。

逆に、筆者に何かをした人間も、その後成功してはいけないのだろうか。

そんなことを始めたらキリがない。

「生きていていい。ただし死んだように生きろ」

それは更生ではない。

いい年した大人が裸になって殴り合うBreakingDownだってある

この問題は『ラヴ上等』だけでは終わらない。

例えばBreakingDown

元不良など様々な経歴を持つ参加者も登場し、大人たちがリングで殴り合う巨大な格闘技コンテンツとして成立している。

筆者は個人的には好きではない。

いい年した大人が裸になって殴り合っている。

筆者はそれを見たいとは思わない。

だから見ない。

それだけだ。

わざわざ見に行って「俺が不快だからYouTubeから消せ」とは言わない。

法律やYouTubeの規約に反していないのであれば、見たい人が見ればいい。

『ラヴ上等』も基本的には同じである。

元ヤンキーの恋愛リアリティーショーが嫌いなら、Netflixで再生しなければいい。

ただし、そこへ法務省が「更生保護」の看板を持って乗っかるとなれば別問題だ。

だから今回失敗したのである。

嫌なら自分でスクランブルをかければいい

Netflixには大量の作品がある。

YouTubeにも膨大な動画がある。

テレビにも様々な出演者がいる。

嫌いなら見なければいい。

自分でスクランブルをかければいいのである。

自分の家族と暮らす。

気の合う仲間と付き合う。

自分が居心地のいいコミュニティを作る。

ここは自由民主主義の日本である。

自分の好きなものだけが存在する社会ではない。

自分が大嫌いなものも存在する。

だからこそ、自分には「見ない」「関わらない」「選ばない」という自由がある。

もちろん批判する自由もある。

法務省のタイアップを批判するのも自由だ。

『ラヴ上等』の編集を批判するのも自由だ。

出演者の過去について批判するのも自由だ。

しかし、

「だからお前は一生、社会の表に出るな」

となれば話は違う。

技術は進歩した。でも人間は何百年前から変わったのか

スマートフォンを持つ。

Netflixを見る。

YouTubeを見る。

AIを使う。

世界中の人間と一瞬で通信できる。

技術は恐ろしい速度で進歩した。

ところが人間が集団になった途端、

「あいつを追い出せ」

「表に出すな」

「一生反省していろ」

「日陰で生きろ」

という感情が顔を出す。

何百年前の村社会から、本当にどれほど変わったのだろうか。

『ラヴ上等』は入口にすぎない

今回の法務省タイアップについては、筆者も失敗だったと思っている。

余計なことをせず、Netflixは普通に番組を配信していればよかった。

法務省も法務省で、普通に更生保護の広報をすればよかった。

それだけの話だった。

しかし炎上によって出てきた、

「被害者がいるなら日陰で生きろ」

という考え方は別問題である。

この理屈を本当に社会全体へ適用したらどうなるのか。

元ヤンキーの芸能人は?

少年院経験のある俳優は?

事件を起こして復帰した芸能人は?

元受刑者の経営者は?

BreakingDownは?

過去に問題を起こして復帰したスポーツ選手は?

皆さん、引退ですか?

そんな社会が成立するはずがない。

では、人間はいつまで過去の責任を背負えばいいのか。

そして社会は、どこから先を「更生」として認めるのか。

『ラヴ上等』騒動を入口に、この問題を今後も追っていく。

次回は「『ラヴ上等』出演者がダメなら、元ヤン芸能人も全員引退なのか?」を実名と記録から検証する。


参考資料・出典

  • 法務省「Netflixの『ラヴ上等』シーズン2とのタイアップについて」(2026年8月21日)
  • FNNプライムオンライン「法務省『ラヴ上等』タイアップポスター取りやめ」(2026年8月21日)
  • テレビ朝日・ABEMA Prime『「人に火をつけた」でNetflix「ラヴ上等」炎上 法務省なぜコラボ?』
  • NHK『ETV特集 罪と赦し ~出所者たちの記録~』
  • テレビ朝日『テレメンタリー』元受刑者社長に関する放送資料
  • テレビ東京『家、ついて行ってイイですか?』2026年2月22日放送回

【編集部注】
本記事は「元ヤンキー」であることと犯罪歴があることを同一視するものではありません。元不良、元暴走族、少年院経験、服役経験、刑事事件歴などはそれぞれ異なります。個別の人物については、本人が公表した経歴や公的資料、報道などを基に区別して扱います。

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