テレビを見ていたら、「怒らないことが今度はホワイトハラスメントだ」みたいな話が流れていた。
正直、最初に思ったのはこれだった。
もう意味がわからん(笑)
怒ったらパワハラ。怒らなかったら今度は別のハラスメント。じゃあ現場はどうすればいいんだ、という話である。
ただ、この違和感をそのまま笑い話で終わらせるのも、少し違う気がした。
問題は、怒るか怒らないかではない。
本当に怖いのは、必要なことを誰も言わなくなることだ。
昔の職場は、正直しんどかった。組織に入って働けば、理不尽もあったし、嫌な人もいたし、言い方がきつい人もいた。でも、その中で仕事の基準を覚えた部分もあったと思う。
今は働き方が多様化して、一人で完結する仕事が増えた。Uberのような仕事もそうだし、配達、フリーランス、在宅ワーク、発信業、個人事業主の働き方もそうだ。
自由だと思う。
でも同時に、それは誰にも矯正されない働き方でもある。
だから今回のテーマは、「怒る上司が正しいのか」「怒らない上司が悪いのか」ではない。
怒られない時代に、人はどう仕事を覚えるのか。
ここを、一人仕事の目線で考えてみたい。
ホワイトハラスメントという言葉に、まず少しだけ距離を置きたい
最初に整理しておくと、「ホワイトハラスメント」という言葉は、パワハラのように法令や公的な定義が固まった言葉ではない。ニュースやネットで広がっている俗称に近い。
だから、言葉だけが一人歩きすると危ない。
「怒らないのもハラスメントなんだってさ」とだけ受け取ると、ただの混乱になる。
でも、この言葉が話題になる背景には、今の職場や社会の空気があるのも事実だと思う。
怒るのはダメ。強く言うのもダメ。厳しく指摘するのもリスク。そうなると、今度は必要なことまで言わなくなる。
結果として、本人は嫌な思いをしないかもしれない。でも、仕事は覚えにくくなる。何が悪かったのかも見えない。気づいたときには、周囲から静かに評価を落としている。
それはそれで、かなり不幸だ。
つまり、ホワイトハラスメントという言葉の是非よりも、僕が問題だと思うのは、必要な指導や注意まで消えていくことのほうだ。
本当の問題は「怒るかどうか」ではなく、「伝えるべきことを伝えているか」だ
昔の日本の職場は、今よりずっと組織が強かった。嫌でも会社に合わせる。嫌でも先輩に頭を下げる。嫌でも人間関係の中で働く。そういう時代だったと思う。
それが良かったとは言わない。僕だって嫌な思いはした。
でも、あの環境には一つだけ、今より強かったものがある。
仕事の基準が、人を通して伝わっていたということだ。
報告しろ。確認しろ。納期を守れ。挨拶しろ。客の前でその顔をするな。ミスしたらすぐ言え。そういうことを、良くも悪くも人から言われた。
今は、そこが一気に薄くなっている。
だから重要なのは、「怒ること」そのものではない。
怒鳴ることが指導ではないし、黙っていることが優しさでもない。
本当に必要なのは、
- 何が問題なのかを伝えること
- どう直せばいいかを伝えること
- 人格ではなく行動を見て話すこと
- 相手が次に動ける形で渡すこと
ここだと思う。
厚労省も、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラには当たらないと整理している。つまり、本来の問題は「指導すること」ではなく、相手を潰すようなやり方にある。そこは混同しないほうがいい。
一人仕事は、誰も注意してくれないからこそ、静かに劣化する
このテーマを一人仕事で考えると、かなり重い。
会社にいれば、面倒でも誰かが見ている。上司、先輩、同僚、取引先。良くも悪くも、他人の目がある。
でも一人仕事は違う。
配達員なら、今日も一人でピックして、一人で運んで、一人で届ける。フリーランスなら、一人で考えて、一人で作って、一人で納品する。ブロガーなら、一人で調べて、一人で書いて、一人で直す。
これが自由である一方で、かなり危ない。
なぜなら、少しずつ雑になっても、すぐには誰も止めてくれないからだ。
要望を読み飛ばす。確認を省く。面倒くさがる。感情が荒れる。言い方が雑になる。ちょっとしたミスを「まあいいか」で流す。
こういうものは、ある日突然悪化するわけじゃない。じわじわ進む。
しかも売上が出ているうちは、自分でも気づきにくい。
件数が回っていれば、「今日はうまくいった」と思いやすい。でも実際には、仕事の質は少しずつ落ちているかもしれない。
これが一人仕事の怖さだと思う。
配達員にも「見えない劣化」は起きる
配達の仕事は、単純作業に見えて、実はかなり人が出る。
要望をちゃんと見るか。店での待ち方が荒れていないか。お客様への一言が雑になっていないか。届けた後の完了操作を慌てていないか。商品状態に少しでも気を配っているか。
こういう細かい部分は、結局その人の仕事の基準が出る。
前回のサイレントカスタマーの記事でも書いたけれど、お客様は意外と何も言わない。言わずに離れる。だから「怒られなかったから大丈夫」は、あまり当てにならない。
同じように、一人仕事では「誰にも注意されなかったから大丈夫」も危ない。
怒られていないだけで、直したほうがいい点は山ほどあるかもしれない。
そして怖いのは、SNSで愚痴ることに慣れてしまうことだと思う。
もちろん、愚痴るなとは言わない。腹が立つことはあるし、現場には現場のストレスがある。
でも、何かあるたびに「運営が悪い」「客が悪い」「店が悪い」で終わってしまうと、自分の仕事を見直す視点が消えていく。
それはかなり危ない。
一人仕事の人間が劣化する時は、能力が落ちるというより、自分を見直す習慣が消える時だと思う。
怒られない時代ほど、自分で自分を点検する必要がある
だから、一人仕事の人間には、自分で自分を点検する仕組みがいる。
大げさなことではない。
今日、雑だった場面はなかったか。
店待ちでイライラを顔に出していなかったか。
お客様の要望をちゃんと見たか。
急いでいても、基本動作を省かなかったか。
売上だけを見て、質を無視していないか。
この程度でいい。でも、この程度が大事だ。
会社員なら、上司が言ってくれることを、一人仕事では自分でやるしかない。
ここを面倒くさがると、自由な働き方はただの自己流になる。自己流が全部悪いわけではないが、自己流には崩れる危険もある。
一人で働くなら、自由の代わりに、自己点検の責任を引き受けるしかない。
今の時代は、人と話さなくても情報は入る。だからこそ「判断する技術」が要る
今は昔と違って、仕事の知恵を人づてにしか得られない時代ではない。
検索すれば出てくる。YouTubeもある。SNSもある。AIもある。本もある。ニュースもある。
僕自身、今の生活の中で、家族以外とそんなにたくさん話すわけではない。ツールとも会話するし、Netflixも見るし、ネットからいろいろ入ってくる。
でも、だからこそ必要になるのが、前にボスが言っていた言葉だと思う。
情報判断力ではなく、情報を判断する技術。
これは本当にそうだと思う。
情報が多い時代は、ただ知っているだけでは足りない。何を採るか。何を捨てるか。何を自分の仕事に引きつけるか。そこに技術が要る。
オールドメディアか、新しいメディアか。どっちが偉いか。そんな話に乗りすぎても仕方がない。
結局、自分がどう読むか、自分がどう使うかだ。
同じことは仕事にも言える。
怒らない上司が悪い、怒る上司が悪い、時代が悪い、SNSが悪い。そう言っても、最後に自分の仕事を守るのは自分しかいない。
AI、本、通知、失敗。全部、自分の先生にできるか
一人仕事の時代に強い人は、別に全部を一人で発明しているわけではない。
むしろ逆で、いろいろなものを自分の先生にしている。
AIに整理させる。運営通知を読む。本から考え方を取る。他人の失敗から学ぶ。自分のミスをメモする。ニュースを見て、ただ怒るのではなく、自分の仕事にどうつながるかを考える。
そういう人は、一人でも伸びる。
逆に、何を見ても「くだらない」「意味がない」「あいつが悪い」で終わる人は、情報が多い時代ほど弱い。
なぜなら、自分を矯正する材料を全部捨ててしまうからだ。
前回のサイレントカスタマーも、今回のホワイトハラスメントも、本質はそこにつながっている気がする。
通知を笑って終わるのか。違和感をネタにして、自分の仕事を見直すのか。
ニュースを笑って終わるのか。そこから、「じゃあ一人で働く自分はどう基準を持つのか」を考えるのか。
その差は、じわじわ大きくなる。
編集後記:怒鳴られたいわけじゃない。でも、仕事の基準は必要だ
誤解されたくないのは、僕は昔の怒鳴る職場に戻りたいわけではないということだ。
怒鳴られたいわけでもない。理不尽に支配されたいわけでもない。パワハラは普通にいらない。
でも同時に、必要なことまで誰も言わない社会が、本当に優しいのかというと、そこはかなり疑っている。
特に一人仕事は、誰にも直されないまま、自分の癖がそのまま仕事になる。
それが良い方向に出れば強い。でも、悪い方向に出ると、かなり静かに崩れる。
だから、一人で働く人間には、自分なりの基準がいる。
今日の自分は雑じゃなかったか。
人のせいだけにしていないか。
必要な注意まで拒絶していないか。
自分の仕事を、自分で育てようとしているか。
ここを見ないといけない。
松下幸之助さんは「素直な心」を大事にしたと言われるけれど、あれは何でも言いなりになることではないと思う。必要なことを必要なものとして受け取る姿勢のことだと思う。
怒鳴られなくていい。でも、基準はいる。
優しくされたい。でも、甘やかされるだけでは育たない。
一人仕事の教養は、たぶんこのあたりにある。
怒られないことは自由でもある。
でも、誰にも直されないことは、劣化の始まりにもなる。
これを忘れない人が、結局は長く働けるのだと思う。


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